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<運命という名の共謀>


<序論>

 「運命システム」は「深淵」のセッションの方向性を決定付けるシステムです。
 世に言う「三題噺」というものがあります。「運命」というのはまあ三題噺の中の「お題」みたいなものです。あらかじめランダムで「こういうシチュエーションを出す」というのを決めておいて、それを実際のセッション中にうまく組み込もうというシステムです。ランダムシナリオ作成ツールをそのままシステムに組み込んだようなものですね。テーマがシリアスで過酷なものが多いのは、まあ「深淵」の“さが”でしょうか(笑)。

 「深淵」の「運命」に関する考察としては「在胡’SPAGE」の「TRPGの部屋」に素晴らしい論考があります。個々の運命の分析およびそのロールプレイの仕方に関してはそちらを読んでいただくことを強く勧めます。

 さて、ここの論でも同様の話をしても芸がないと思いますので(心理学・哲学関連の知識の面でもあちらには勝てません(^^;))、ここでは「運命」というツールをセッション上どう生かしてプレイしたらいいだろうか?という観点での論を書こうと思います。


ー総覧ーーー

<序論>

<運命ルール概略>
 1.「運命」の概念
 2.ルール上の記述

<プレイヤー向け:運命のプレイの仕方>
 1.キャラクターの過去を決定する運命
 2.キャラクターの現在を決定する運命
 3.キャラクターの未来を決定する運命

<マスター向け:運命は活用すべきである>
 1.「深淵」における“シナリオ”とは?
 2.「縁故」はシナリオに登場させるべきである
 3.予言は成就すべきである

<結論:運命という名の共謀>


<「運命」ルール概略>
1.「運命」の概念
 運命というのは、そのキャラクターの過去・現在・未来における「状況設定」です。おもに、以下の系列があります。

・キャラクターの過去を決定する運命
・キャラクターの現在を決定する運命
・キャラクターの未来を決定する運命

2.ルール上の記述
 ルール上「運命」については以下のようなことが記述されてます。

・1キャラクタの持てる運命は3つまで
・セッション中に運命を得る場合、寿命4年払うと運命を一つ引きなおしできる
・セッション前/後であれば、寿命4年払って運命を一つ打消しできる
・寿命4年払えば運命を一つ得ることが出来る
・縁故5以上のNPCがいる場合、その縁故も一つ運命を持つことになる(縁故3つまでの制限には入らない)
・大失敗(1ゾロ)した場合、運命を一つ受け入れれば振りなおしができる


<プレイヤー向け:運命のプレイの仕方>
 とりあえずここでは概略だけ記しておきます。

1.キャラクターの過去を決定する運命

 キャラクターの変えられぬ過去を決定するタイプの運命です。キーワードは「回帰」。夢歩きでその状況が繰り返されるのに加え、現実にもその「過去」に類似した事件を発生させると話としてよりドラマチックになるでしょう。
 過去は変えることが出来ないが、未来は変えることが出来る。

具体例)「罪悪感」「言えなかった一言」「追放」

2.キャラクターの現在を決定する運命
 キャラクターの現在の状況を決定する運命です。キャラクターの弱点・強みとなります。

2−1.不利な状況を与える運命
 単純にキャラクターに対して与えられるペナルティとなる運命です。セッション上の使い方は2通りあります。

・甘んじて受け入れて、危機感を高める演出として利用する
・運命の解消をシナリオ上の目的とする

具体例)「醜悪」「片腕」「失われた体」

2−2.有利な状況を与える運命
 これも2通りあります。

・キャラクターを特徴付ける演出として利用する
・その運命(縁故)を喪失するドラマを描く

具体例)「魔法の武器」「友なる獣」「魔法の力」

2−3.補足
 運命によって与えられる「縁故」が重要です。能力的なメリット/デメリットよりも縁故によって与えられる影響の方がセッションの進行上重要でしょう。「縁故」の扱いに関しては「縁故を制する者は深淵を征す」をご覧下さい。
 あと、状況によって有利/不利が変わる運命もありますし、どちらともつかないような運命もあります。

具体例)「大いなる予言」「運命の出会い(同性/異性)」

3.キャラクターの未来を決定する運命
 深淵で最も面白いと思われる運命です。何しろ、セッションの行く末を決定する運命ですから。セッションがこうなるべきだ、というのを決定付けるシステムは数ありますが、その中でも「キャラクターの望まない結末」を決めてしまうシステムはこの「深淵」の運命くらいなものです(笑)。

 大まかに、

「ミッション系(キャラクターに決まった目的を与えるもの)」
「予言系」

の2通りがあります。

 僕が思うに、このタイプの運命はまったく傾向の異なる2つのプレイスタイルが方法として採れると思います。

具体例)予言系各種、「待機」「任務」

3−1.プレイヤーが運命の成就を望まない場合
 キャラクターが運命をどう受け止めるか?それをどう解消するか?というミッションクリア型なプレイスタイルになります。なので、まず「キャラクターが運命のことを知る」ことが必要になります。基本的にGMが運命にまつわる無理難題をふっかけ、PL&PCがそれに対抗すべくあがき続ける、というような流れになるでしょう。バランスとしては、キャラクターが命がけで全力でやったらうまく行けば何とか回避できるかも、というくらいがいいと思います。具体的に言うと、寿命を削って削ってかつうまく立ち回れば何とか達成できるくらい。

 個人的には、運命を解消したと思ってほっと一息ついたところでグサッと来るのがいかにも「運命」らしくて好きなんですけど(笑)、最近の人はそうでもないみたいですね。

3−2.プレイヤーが運命を望む場合
 これって結構難しいです。しかしこの状況をプレイできるプレイヤーってのは力量として大したものだと思います。
 キャラクターが運命を知らない場合、プレイヤーは運命が成就するようにプレイすべきと思います。すべてがうまく行って大団円になったかな、というところで突き落とすのが最も効果的でしょう(笑)。

3−3.実際は…
 実際は、プレイヤーもキャラクターも揺れ動くものです。ここでは仮想現実内の決断のゲームと、プレイヤーサイドの決断のゲームの2つのゲームが平行して進行することになります。

 キャラクターのゲームというのは、さまざまなしがらみ(縁故)による葛藤のゲームです。

 プレイヤーのゲームというのは、「どちらが話として面白いと自分が感じるか?」という「深淵」の本来のテーマに沿ったゲームです。


<マスター向け:運命は活用すべきである>
 「深淵」を「深淵」たらしめている、その中核のシステムは「運命」です。そのセッションは「運命」を活用したものにすべきです。具体的にどうすればそれを生かすことが出来るかを以下に記します。

1.「深淵」における“シナリオ”とは?
 「深淵」では「運命」を生かしたセッションをした方がより「深淵」らしい楽しみを得ることが出来ます。

 では、どんなセッションをしたら良いんでしょうか?そのためには、キャラクターから見た「セッション」の位置付けを、他のシステムとはまったく違う風に見る必要があります。旧来のシステムにおける「1セッション」というのは「キャラクターの冒険の中の一つの場面」という程度の重要度でしかありませんでした。しかし「深淵」ではそれはまったく違います。「深淵」におけるセッションとは、「運命」に出会うことなのです。

 つまり、

「そのキャラクターの人生における最も重大な事件(運命)に出会う」

のが「深淵」のセッションなのです。

「人生における最大の難関に遭遇する」

のが「深淵」のセッションなのです。
 「深淵」において描かれる「日常」とは、その大事件とのギャップを引き立たせるための単なる演出に過ぎません。

「人生における最大級の絶望的な事態に遭遇し、そこで命がけであがく」

のが「深淵のセッション」なのです。

2.「縁故」はシナリオに登場させるべきである
 人生における最大級の事件に遭遇する以上、縁故はぜひともそのシナリオに登場させるべきです。しかも、事件に巻き込まれた形で登場するとなおいいですね。縁故が登場すれば、そのキャラクターは事件に関わらざるを得なくなります。キャラクターはまた、縁故のためなら命を賭けることも辞さないでしょう。ですから、是非登場させてください。

 深淵では一部の縁故はNPCと指定されていますが、対象をPCにした方がずっとドラマチックになります。その縁故をPCにすることが可能か検討してみるといいでしょう。ただ、敵対する縁故の場合には注意が必要です。その場で殺し合いになると話が面白くなくなってしまいますので。恋愛小説・漫画みたいにクライマックスの場面をあとに引き伸ばすことが肝要です。

3.予言は成就すべきである
 「運命」とは「望むと望まぬとに関わらず降りかかってくるもの」であり、「あがいても無駄」なものです。実際には単なる“はったり”に過ぎないのですが、キャラクター(&プレイヤー)をそう信じ込ませることが重要です。そのために、マスターはその運命が成就するように画策してキャラクターを嵌めていくことが必要です。

 そしてその結果としては、

・プレイヤーが納得して自分のキャラクターをその運命に陥れる
・マスターが納得してそのキャラクターが運命を覆す場面を演出する

のいずれかに転ぶのが望ましいと思います。
 基本的にプレイヤーはPCが運命から逃れることを望むものですので、マスターとしては運命から逃れられず成就する方向を目指してプレイするのがいいでしょう。この辺りの展開の模索はマスターとプレイヤーの戦いだと思ってください。そして、勝つことも負けることもありえます。潔く結果を受け入れましょう。

 とりあえず、予言が成就するにしてもしないにしても、安易にやるのは「深淵」の世界のイメージからして良くありません。プレイヤーはそれを真摯に受け止めてまじめに考えて決断すべきですし、マスターも説得力を出すための演出を考えておくと雰囲気が出て良いと思います。


<結論:運命という名の共謀>
 「深淵」は美しい物語を作るゲームだとコンセプトでは書かれていますが、その指針となるのが「運命」です。「運命」を題材に、過酷でシリアスな美しい物語をプレイヤーとGMが共謀して演出する、というのがおそらく「深淵」というシステムの目指すセッションの方向だと思います。


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