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<縁故を制する者は深淵を征す>


<序論>

 「縁故ルール」は「深淵」というシステム(ゲーム)の核となるパラメータです。これがあるために、「深淵」では特に戦闘などしなくてもそのセッションを「ゲーム」として成立させることができます。
 ただ、そのためには「縁故」をある程度厳密に適用してきちんとプレイヤー&GMがロールプレイする必要があります。逆に厳密すぎると「設定に踊らされてロボットのように唯々諾々とキャラを動かすだけの人」になってしまうので、それを回避するためのテクニック(ご都合主義的曲解とも言う(笑))が必要です。

 それらを理解したうえでプレイするならば、「深淵」は「人間関係ゲーム」とでも言うべき「マルチプレーヤーズゲーム」としての面白さを提供する深いゲームとなり得ます。


ー総覧ーーー

<序論>

<縁故ルール概略>
 1.「縁故」の概念
 2.ルール上の記述

<初心者向け:縁故の割り振りの際のポイント>

<中級者向け:縁故5のロールプレイはとても難しい>
 1.いま、あなたが現実の自分の生活で一番大事だと思っていることは何ですか?
 2.それはあなたの命よりも重い
 3.それはあなたの生活の中の「すべて」
 4.相手に対して抱いている「感情」が大事
 5.想像できない「感情」を設定してはいけない
 6.補足:GMの想像できない「感情」は避けた方がいい(笑)

<上級者向け:縁故考察>
 1.「縁故」=「PCの行動原理」
 2.縁故の要求に逆らうには意志判定が必要
 3.テクニック:対抗する縁故を作る
 4.テクニック:縁故を変動させる
 5.テクニック:潜在的縁故
 6.縁故の解釈の多様性
 7.縁故を割り振っていない者のことを積極的に考えてはいけない
 8.縁故の体系は価値観の体系である

<マスター向け:縁故でキャラの行動をコントロールする>

<結論:縁故を制する者は深淵を征す>


<「縁故」ルール概略>
1.「縁故」の概念
 縁故というのは、そのキャラクターがその対象に対してどのくらい強い思いを抱いているか?を示すパラメータである。(どのような感情を抱いているか?は表現しない。これについては個別に決める必要がある。)
 割り振ったポイントとその意味合いは以下の通り。

「縁故段階表」(人、信仰、物品)
 1:気にしている、興味をもっている、大切にしている
 2:常に気にかかる、深く興味を持ち部分的に信じている、常に持ち歩いている
 3:家族のように大切に思う、心から信じる、通常の物の縁故上限であり常に頼りにしている
 4:非常に大切に思いすぐに恋しくなる、盲目的に信じる、常に触れていたいと思う
 5:全てを共有しあう離れてはいられない関係、熱狂的に信じる、部分的に支配されている
 6〜:強い独占欲など異常な執着をみせる、狂信的な信仰、完全に支配されている
※縁故5以上は、縁故自身が「運命」を持ち、その運命に巻き込まれることになる。

 縁故のポイントの総計は「社交+5」までとルール上定められているが、これは「人の想いは限られる」…人が意識して考えられることの範囲は限られるということを再現している。

2.ルール上の記述
 ルール上「縁故」については以下のようなことが記述されている。

・社交+5まで割り振れる。
・人に割り振れる縁故は5点まで
・物に割り振れる縁故は3点まで
・運命による縁故は制限に含まれない
・寿命1年+演出で縁故ポイントだけ達成値にプラスできる(縁故に+1される)
 ※縁故が増えることについては単純に適用するとすぐにバランス崩壊するので、適用しない場合が多いようだ。
・縁故に逆らう行動をするためには意志の判定で「10+縁故」
・1セッション縁故に逆らい続けたら縁故を1減らせる
・縁故が足りない場合は少ない縁故から削っていく
・寿命を減らして社交を増やすことで、縁故の上限を増やすことが出来る。


<初心者向け:縁故の割り振りの際のポイント>
 漠然と「縁故を割り振ってください」と言っても、初心者だとかなり悩むことになると思います。ということで、以下に重要度の高い順に割り振るべき縁故の考え方を書きます。ただこれはあくまで目安であって、シナリオやGMのプレイスタイルによっていくらか優先順位が入れ替わる場合があります。

1.「運命」による縁故
 これは「割り振らなくてはいけません」。縁故の上限(社交+5)を超えてしまった場合には、寿命を削って「社交」を増やしてください(縁故の上限も同時に増える)。

2.シナリオの主要キャラクターへの縁故
 運命で定められなかった場合には、シナリオ上の重要キャラクターに自主的に縁故を割り振った方がシナリオに関わりやすくなります。

3.他のPCへの縁故
 とりあえず、他のPC(最低一人)にも縁故を割り振った方がセッション中で絡ませやすくなって面白くなります。いざという時に助ける/助けられるという関係を作りたいなら是非割り振りましょう。

4.武器への縁故
 戦闘系キャラクターは割り振った方が確実に得です。割り振っただけ攻撃/防御に修正が付きます。縁故を割り振れば、その武器を夢の中に持ち込むことが出来るようになってさらにお得です。非戦闘系キャラでもいざという時にヒロイックに活躍したいなら、武器に縁故を割り振っておいた方が良いでしょう。

5.仕事仲間/上司、肉親、友人、貴族
 シナリオには登場しないかもしれませんが、夢歩きで重要な忠告をしてくれることがあります。余裕があれば割り振っておきましょう。

6.その他
 魔法使い系キャラクターは、護符・魔法水晶を持っているなら縁故を割り振らなくてはなりません。他にもいくつか職業上必須の縁故があります。
 それ以外には、誰かの形見の品とか持っておくと何かの時に役立つかもしれません。

7.いい運命が無かったらとりあえず誰かに5点振っておく
 深淵では、明らかに誰かと深い縁故を結んで、重大な運命を得てそれを乗り越えようとしつつプレイするのが「深淵らしい」し面白いと思います。運命の割り振りによってはそれほど重要な運命が得られずあまり活躍できそうもない設定のキャラになってしまう場合があります。
 そんな時は誰か、シナリオの核心に迫りそうな人に縁故5点振るといいでしょう。否応なしに話に巻き込まれることになります。

 シナリオに登場しないキャラに縁故5点振っておくのも、マスターが、それを見てその縁故を登場させてくれるのであれば有効です。

 他のPCに縁故5を割り振るのも非常に面白と思います。相手は1点も縁故を振ってくれないかもしれませんけど(笑)。


<中級者向け:縁故5のロールプレイはとても難しい>
 せっかく対人感情のパラメータがルール上決められていても、ちゃんとその通りにプレイできないのであればまったく無意味です。ルール化されていない他のシステムならいざ知らず、ルール化されている「深淵」というシステムにおいては、「縁故」というパラメータを無視したプレイというのは「ルールを守らないプレイ」と同義です。「ルールを守らないプレイ」というのは、その時点でそのゲーム性を破壊し、ゲームの面白さをまったく台無しにしてしまうひどいプレイなので、出来る限りやらないよう気を付けた方がいいでしょう。

 さて、とは言ったものの縁故設定をきちんと反映させたプレイをするのは意外に骨が折れるものです。特に「縁故5」に関するプレイというのが重要かつ難しい。では、実際どんなことに気を付けながらプレイすればよいのか?というのを以下に記していきます。

1.いま、あなたが現実の自分の生活で一番大事だと思っていることは何ですか?
 縁故が5あるというのを想像するためには、いま現実で一番大事だと思っている事柄、人、などを思い浮かべるのが一番わかりやすいと思います。そのキャラクターは、その縁故5の対象をそれくらい重大に考えて生活しているということです。多少極端に言えば、そのキャラクターは四六時中その縁故5の存在のことばかり考えて生活している、と言っても過言ではありません。

2.それはあなたの命よりも重い
 縁故5の存在というものは、自分の命と同等か、あるいはそれ以上の価値を持った存在です。多くの人は、自分が死ぬのは嫌だとか辛いとか思うでしょうが、縁故5の存在が死ぬというのはそれと同じくらい嫌で、辛いものなのです。そのキャラクターはそう考えます。それが「縁故5」の意味です。

3.それは、あなたの生活の中の「すべて」
 縁故5の存在というのは、そのキャラクターにとってなくてはならない生活基盤のすべてです。そのキャラクターが生活するにおいて、何をする際にも必ず考慮に入れた上でしか生活出来ない、というくらい重大なものです。端的に言うと、

「それなしの生活など、想像することも出来ない」

というくらいの感じですね。

4.相手に対して抱いている「感情」が大事
 縁故5の存在に対してどんな感情を抱いているか、が極めて重要です。よくある感情の例としては以下のようなものがあります。

・好意的な感情
 愛情・友情・尊敬・崇拝・信頼

・敵対的な感情
 憎悪・嫌悪・軽蔑

・中立的な感情
 「運命を感じる」「愛憎半ば」

 好意的な感情に関しては割とわかりやすいかと思います。「それが自分にとってとても大切なもので、それなしには生きていけない」というような感覚ですね。極端な例だと、「それがいるということを想像しただけで世界が(いい意味で)変わって見える」とか。

 敵対的な感情の方は、ちょっと難しいと思います。まあ、これまでの人生の中で出会った一番嫌な奴のことでも想像してみればいいでしょうか(笑)?「不倶戴天の敵」という慣用句がありますが、それは「いっしょにこの世界に生きているということを想像するだけでも腹が立って仕方がない」というぐらいの強い敵対的な意識です。他に、復讐を誓った人間が、復讐を遂げて相手を殺す(相手が無様に泣き喚くさまなどを想像する)のを想像して歓びを覚える、とかそれくらいの強い感情です。こちらの感情の方は、まったく(ほとんど)体験がないという幸運な人も割といるみたいなので、そういう意味で難しい。その手の負の感情を自分の中で再現すること自体不快で、ある意味辛い、という意味でも難しいと思います。
 復讐劇など人々の共感を非常に集めやすいので多くの人が想像可能な感情だとは思いますが、実際生々しく自分の内に呼び起こすのはちょっと重い(というか辛い)ものがあるかもしれません。いわゆる「勧善懲悪もの」の「悪者をやっつけて気分がいい」というのは、この手の不快→開放の感覚をよりライトに表現したエンターテインメントと言えるでしょう。「悪を憎む心」に「私怨」をプラスしてやればすぐさま「憎悪」の感情の出来上がりです。理論上は簡単(笑)。

 中間的感情を縁故5の存在に対して抱いているというのは極めて稀だと思います。十中八九、好意的か敵対的かに傾くものだと思います。
 あり得る例としては、「運命を感じる」というような相手に具体的な何らかの感情を抱く前の状態(「運命の出会い」が成就する前の予感の段階)に、「ただ相手を重大な存在だと思っているが、自分がそれに対してどんな感情を抱いているのか自分でもわからない」というような状況が一時的に発生する場合があると思います。
 他には「愛憎半ば」というような状況ですね。単純に「愛している」と言っても、相手が自分の思うとおりになっている間は「相手のことを大事に感じる」でしょうが、相手が思い通りにならないと「相手のことをとても憎らしく思う」というような状況にすぐに傾きます。いや「愛情」って難しいですね(笑)。

5.想像できない「感情」を設定してはいけない
 「4.相手に対して抱いている感情が大事」に対する補足ですが、縁故5の存在に対して抱くようなある種“激しい”感情というものは、実際に体験したり、メディアを通じて見たり聞いたり共感したり、ということがないとプレイすること自体難しいです。自分の想像も出来ない感情を自分のキャラクターに対して設定してしまうと、せっかくの設定が空回りして「縁故5の設定を生かしたプレイが出来ない」ばかりか「自分の望むのとまったく違う方向にキャラが走り出す」というような事態に陥る場合もあります。
 かと言って、縁故5の設定を生かしたプレイをしないと、「深淵」の人間関係ゲームとしての側面のプレイがまったく出来ないことになってしまうので(場合によってはシナリオ崩壊する危険もある)、気を付けた方がいいです。

 とりあえず、自分の想像できないような「感情」を設定しないというのが、事前に出来る最大の対策です。そして、いったん感情を設定したのであれば、セッション中に何度となくその「感情」をイメージしたロールプレイを要求されることを肝に命じておいた方がいいでしょう。

 そうして、縁故に対して設定した感情をちゃんとプレイできるようになれば、「深淵」はゲームとして面白くなるし、プレイするあなた自身もより深く自分のキャラに感情移入してプレイできるようになるのです。

6.補足:GMの想像できない「感情」は避けた方がいい(笑)
 …とは言うものの、自分ひとりだけが自分のキャラに感情移入してきちんとロールプレイしても、他の人がそれに共感してリアクションを返してくれないことには、ゲームとして成立しませんし、独りよがりのそしりも免れ得ません。

 とりあえず、自分のキャラの感情をわかりやすく表現して見せることが肝要です。

 また、ある種の感情に対して拒絶反応を起こす人もいますので(恋愛感情とか、憎しみとか…)、そういう人相手には多少控えめな演出にとどめてプレイした方がいいかもしれません。

 キャラの設定を生かしてきちんとプレイすることも大事ですが、それ以上に、プレイする人間同士がコミュニケーションして話を作り上げていく過程の方が大事です。その過程に縁故5に伴うような劇的な感情をうまく取り入れていけば、「深淵」のセッションはより濃密で熱いものとなっていくでしょう。


<上級者向け:縁故考察>
 「深淵」では、「縁故」は設定上最も重要なパラメータです。縁故の設定を間違えると「プレイヤーの言うことを聞かないPC」が出来てしまうので、その設定には細心の注意を払ってください。(実際は、こんなに厳密にプレイすることはないでしょう。あくまで目安と考えてください。)

1.「縁故」=「PCの行動原理」
 基本的に深淵のPCは、縁故に従って行動します。考え方としてはすべての深淵のPCは「自分(5)」という縁故を持っているものとして比較検討してみるといいと思います。

サンプル)A
「恋人(5)」
「愛剣(3)」
「親(2)」
「友人(1)」

…という縁故を持ったPCを考えた場合、その行動原理は以下のようになります(原則)。

<1>まず最初に保身、もしくは恋人のことを考える(5)
<2><1>が満たされている場合に、愛剣のことを考える(3)
<3><2>が満たされている場合に、親のことを考える(2)
<4><3>が満たされている場合に、友人のことを考える(1)
<5><4>が満たされている場合に、その他の人々、事物について考える。

2.縁故の要求に逆らうには意志判定が必要
 特に理由がない限り、縁故の要求に逆らうことは出来ません。理由がある場合に限り意志の判定で抵抗することが出来ます。(というか、そもそもそのキャラクターは、縁故に逆らうなんてことは特に理由がない限り想像だにしないであろう。そういう意味で「逆らうことが出来ない」のである。)。

 ちなみに目標値は「10+(割り振った縁故)」。

 サンプルだと、恋人が自分の親を殺すように依頼してきたら、特に理由がない限りそれに従うことになります(笑)。逆に親が恋人を殺すように依頼してきたとしても、恋人の命を守ることの方が大事なので、特に従う必要は生じません。

3.テクニック:対抗する縁故を作る
 たとえ強い縁故に何らかの不当な要求をされたとしても、同じかそれ以上のほかの縁故の要求に逆らうものがあれば、その要求を却下することが出来ます。

 サンプルだと、恋人(5)から何かの依頼を受けたとしても、それが自分(5)の命に関わる危険なものであればそれを断念することが出来ます。

4.テクニック:縁故を変動させる
 対抗する縁故がなくても、それより少ない縁故を増やしてポイントを依頼主の縁故以上にしてやれば、依頼を却下することを考えることが出来るようになります。
 サンプルだと、親(2)に友人(1)を殺せと言われたとしても、友人の縁故を増やす(1→2)ことでそれに対抗できます。理由としては、「殺しの依頼を受けたことでその友人に対する思いが強まった」というような理由付け&演出をすればよいでしょう。

5.テクニック:潜在的縁故
 縁故というのは「明示的」にキャラクターが意識している諸々の人々・事物です。しかし実際の人間というものはすべてを「明示的」に意識しているわけではなく、潜在的に意識して知らず知らずのうちに自分の行動に制限を課している種々の要素を抱えています。それをここでは仮に「潜在的縁故」と呼ぶことにします。キャラクターをよりリアルにプレイしたいのであれば、この「潜在的縁故」まで意識してその行動をコントロールする必要があります。また、うまく利用すれば「縁故」の制約を緩めたり、覆したりする理由を作り出すことが出来るようになります。

例1)自分(5)
 「3.「縁故」=「PCの行動原理」」のところで書きましたが、自分自身のことを(多くは潜在的に)考えない人間というものはほとんど存在しません。私が最近見たかなり完璧に近い“利他的”な人間というと、「スターガール」に登場する主人公「スターガール」その人ぐらいですかね。よく言われる「聖人君主」の類もかなり利他的ですが、これは「自分」への縁故が少ないのではなく、「社交」がずば抜けて高いので人に割り振る縁故の総量も大きいから、その分博愛主義的になれる、と見た方がいいのかもしれません。あるいは、ごく個人的な知り合いではなく「多くの救われない人々」というような漠然とした対象に大きく縁故を割り振っているのかもしれません。

例2)常識(0〜3)
 そのキャラクターの社会性・環境に影響されますが、いわゆる「常識」というやつは潜在的に人の行動を拘束します。「人に会ったら挨拶しなくてはならない」「金をもらったら仕事をすべきだ」「恩を受けたら何らかの形でその恩を返すべきだ」「目上の者は敬うべきだ」「善いことは善いこと」「悪いことは悪いこと」etc...。
 深淵世界独自の常識というと、「魔族は悪しきものである」「貴族は偉い」「妖精族はあがめるべきものである」「龍は恐ろしい」「魔法使いは変な人」「魔法使いでもないのに異形を持っているのは何らかの呪いを受けているのかもしれない」「双子は呪われている」etc..。

例3)タブー(2〜4)
 常識と似ていますが、こちらの方が強制力は強いものと思われます。例としては「殺人」「双子」「不義の子」「食人」「近親相姦」「魔族」「同性愛」「死体愛好」etc...。
 私論ですが、「魔族」というのは「具現化されたタブー」と言ってもいいかもしれません。現実世界の西洋の悪魔などでも、その名前自体が「タブー」なり「悪徳」なりを意味することがよくあります。

6.テクニック:縁故の解釈の多様性
 「3.テクニック:対抗する縁故を作る」「5.テクニック:潜在的縁故」などと絡めて考えるとわかりやすくなるかもしれませんが、「縁故のことを考えなくてはならない」からと言って、唯々諾々と縁故の言うことに従わなくてはならない、というわけではありません。「理由さえ考え付くことが出来れば」反抗することは可能です。また、明確に反抗するわけではないとしても、解釈を変えることで単純に従うのではないような行動をすることが出来ます。

 例えば上のサンプルで、恋人(5)が親(2)を殺すように指示したとしても、「親を殺したくはない(2)」という理由でその指示に抵抗することが出来ますし、「親を殺すことは悪いことである(常識)」という理由付けで拒絶することも出来ます。さらに「恋人(5)に、そんな悪いことはさせたくない(常識)」という解釈をして逆に「改心するよう恋人を説得する」という方向にかわしていくようなプレイも可能です。

7.縁故を割り振っていない者のことを積極的に考えてはいけない
 「1.「縁故」=「PCの行動原理」の補足ですが、縁故の要求が満たされた上でしか他の事物について考えることが出来ないということはですね、よほどキャラクターの状況が落ち着いたときでないと自分に関係ないようなことについて思いをはせることができないということです(設定上“おかしい”ということ)。
 特に、深淵のシナリオでは積極的に縁故が登場することがよくあるので、なおさら「その他大勢」のことを考えている余裕などキャラクターにはありません。

 逆に言うと、現状縁故を割り振っていないけど誰か(何か)に積極的に関わりたいと言うのであれば、縁故を割り振ればいいということです。

 そうやって、深淵ではセッション中に縁故発生することがよくあります。そして、そのために縁故が足りなくなって、少ない縁故を削るとか、寿命を減らして社交を増やす(縁故の上限を増やす)ということもしばしば起きます。

 深淵とは、そういうゲームなのです。

8.縁故の体系は価値観の体系である
 これはものすごく高度な話なんですが、縁故には単純にその対象に対して思いを抱いている、という以上の意味があることがあります。縁故にそのキャラクターの「価値観」をかぶせてイメージしている場合があると思うのです。

 例えばテンプレート「退魔師」の場合。
 「魔法の武器」は単純に大切な魔力を持った武器という以上に、それは「退魔師」としての血筋を表しており、代々の「退魔師」の想いを象徴しており、「退魔師」としての使命を象徴しており、「退魔師」自身が「退魔師」としての自分に課せられた運命に対する想いをも象徴しています。それが親に渡されたものであれば、それは親に対する想いをも象徴します。

 同様に、他のテンプレートの持つ「縁故」にも単純に「相手に強い思いを抱いている」以上の位置付けがあると思います。要するに「縁故の体系」はキャラクターの「価値観の体系」と相似形を為すはずなのです。そのバランスが崩れたならば、それはキャラクターの価値観自体が崩れると言っても良いでしょう。


<マスター向け:縁故でキャラの行動をコントロールする>
 「縁故」=「キャラクターの行動原理」であるということは、マスターは、縁故を操作してやれば容易にそのキャラクターの行動をコントロールできるということです。

1.キャラクターの縁故をチェックすること
 そのキャラクターが、いったい何の影響を受けるのか、その行動原理は何か?の目安が「縁故」です。深淵でキャラクターを作ってもらったのであれば、まず「縁故」をチェックしましょう。

2.縁故を通じて要求を出す
 縁故を通じて何らかの要求を出せば、そのキャラクターはその指示に従うか、少なくとも考慮はしてくれます。縁故を設定するということは、つまりそういうことです。
 マスターはシナリオ上「こういう行動をしてもらいたい」という要求があれば、縁故を通じて依頼することでその行動を促すことが出来ます。

3.縁故により葛藤を生み出す
 複数の縁故から、対立する要求を出すだけで容易に葛藤を生み出すことが出来ます。縁故の主張は是非対立させましょう(笑)。

4.夢歩きに縁故を登場させる
 たとえ縁故を作ってもシナリオ上の制約で登場させるのが難しいことがしばしばあります。ですが、「夢歩き」を使えばいついかなる場所でもすぐに縁故を登場させて、その意見を言わせることが出来ます。さらに都合のいいことに、「夢歩き」はしょせん“夢”なので、その主張に一貫性がある必要がありません。おまけに「実際その縁故がその問題に対してどう考えているか?」を反映する必要すら、まったくないのです。(反映させた方が、例えばあとでその縁故を登場させる場合には有効ですが)

 そういうわけで、マスターはただ単純にそのPCの意向を確認・補強させるために縁故を登場させ、その時点のそのキャラの意見に反対する意見を主張させて、PCの意志を惑わせることが出来ます。


<結論:縁故を制する者は深淵を征す>
 「縁故」とは「キャラクターの行動原理」です。「縁故」を操作するということは、そのキャラクターの行動原理を操作するということです。「深淵」では、この重要なパラメータがルール化されている以上、そのレベルでのゲームが許されているということになります。その点では実に画期的なシステムです。

 「縁故(行動原理)を操作する」というのは、例えば戦闘で言うなら、敵を味方に引き込むのと同様の効果があります。つまり、“無傷で”敵を一人無力化できる上に、(場合によっては)味方を一人増やすことができるという意味です。単純に敵を倒すだけなのと比べて2倍以上の効果があると思ってください。

 そういう意味で、「縁故」は深淵というゲーム上“最強”のパラメータです。まさに「縁故を制する者は深淵を征す」。

 その観点から行くと、深淵の設定上縁故に影響を与えるありとあらゆる効果は要注意ということになります。気をつけてください。

<実例>
・死霊の「恐怖」は危険
・ダメージ:「鼻が陥没する。社交−1」はやばい
・ダメージ:「夢歩きする。印象に縁故1」は危険
・「蟲惑の剣ワルラーム」は最凶最悪の魔剣である(笑)
・「大烏」の不和の毒もかなり危険


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