1.ユースケースで分析するTRPGのシナリオ構造
以下にシナリオの大まかなストーリー構造をユースケース図で表わす。基本的に「シナリオ」と言うとユースケース図では「各ユースケースの中で実際どういうステップで処理をしていくかを書いたフロー」のことを言うのだが、TRPGのシナリオでは単一のシナリオを扱うだけではなくて、各PCごとの設定による物語(シナリオ)、NPCによる物語(シナリオ)というものが複数同居することになる。それらの多少細かいレベルの物語もユースケースとして洗い出す方向で全体の構造を検討してみる。
1.1本道シナリオの場合
TRPGのシナリオを「物語」という観点で見た場合大まかに「1本道シナリオ」「多物語型シナリオ」というものがあると考えられる。
「1本道シナリオ」というのは基本的に全体の話の流れはGMが一元的に管理し、PLがその中で自分のPCをどこで活躍させようか?というのを考えるものである。
1−1.パーティー制一本道シナリオ
メリット ・GMが管理する物語が少なくて済む デメリット ・各PCの個性を出す機会が少ない
1−2.FEAR的シーン制シナリオ
シナリオを連続した1本の物語とは捉えず、1本の連続したシーンの連なりと捉える。
メリット ・GMが管理する物語はパーティー制の時と変わりない
・各PCの個性をシーンに区切ることによって明確化するデメリット ・“基本的”に「各PCの話の流れによって生まれ出る自然なシーン」というのは考慮されない
GMが決めた盛り上げどころで盛り上げることしかできない(あくまで“基本的に”)
2.多物語型シナリオ
「多物語型シナリオ」というのは各PCの個性を出すためにPC個別に物語を考えてシナリオとして組み合わせようという発想から出てきたシナリオ形式である。とはいうもののPC分物語を考えるとすると労力もPC倍になるわけで、そうやって拡散した物語をどうやって小さくまとめるかが技術革新における懸案事項であった。
2−1.何も考えない多物語型シナリオ
やろうとして撃沈した人が多そうなスタイル(笑)。
メリット ・各PCの個性を出す機会が多い デメリット ・GMが管理する物語が多くて管理が大変
・物語が拡散しやすい
2−2.メインストーリーを導入した場合
やろうとして撃沈した人が多そうなスタイル(笑)。GMに高度な情報管理能力があるなら「メインストーリー」で全体のメリハリがついてとりあえずまとまったセッションになる。
メリット ・各PCの個性を出す機会が多い
・比較的物語がまとまりやすいデメリット ・GMが管理する物語がさらに多くなって大変
2−3.メインストーリーをGMとPL1で共有する
能動的に動くのはすべてPLであってGMはリアクションに専念する、というスタイル。しかしまだ大変。
メリット ・各PCの個性を出す機会が多い
・比較的物語がまとまりやすいデメリット ・GMが管理する物語が多くて大変
2−4.すべてのPCのストーリーはメインストーリーの相似形である
基本的に各PCの物語はすべて同じであると考えて画一的リアクションをする。(実際はメインストーリーが3パターンくらいあり、それぞれPCのリアクションパターンが3通りくらい考えられるので3×3=9パターンくらいの展開を想定しておけば、ほぼあらゆるすべてのPCのリアクションに対応できる…はず(理論上))。
メリット ・各PCの個性を出す機会が多い
・GMが管理する物語はすべて同じ物語の継承であるため、
複数の物語でもリアクションの仕方は画一的で良くなり負担は減るデメリット ・物語が複数あるにもかかわらずワンパターンになる
ワンパターンでも面白くなる物語のネタを考える必要がある
3.総評
まず、FEAR的シーン制シナリオというのは一本道シナリオの構造をそのままで、物語を分割し、PLが関わる場所を選ぶという方式であることが明らかになった。これは大きな発見である。パーティー制で何となく各PCの見せ場とかが分かれていたのを「シーン」という切り口でそれを際立たせている。結局一本道シナリオというのはプレイしていて安定感があるし、「PLがぜひ登場したい」と考えられるようなシーンを提供できるならこれは面白い。かつ、シナリオの最大拡散領域を最初から固定で決めてしまっているので(それ以外は「舞台裏」と呼ばれる)、GMが管理する上では非常にやりやすい、かつての一本道シナリオの正統的な後継スタイルといっていいだろう。素晴らしい。
一方、他物語的シナリオ構造の方だが、あくまで「物語」を基準に考えている。革新的と思えるのは行き着いたところが「多彩な物語など不要である。どうせPCのリアクションが多彩になるのだから」っつーところでしょうか。PCによってリアクションが変化し得る魅力的なネタを1〜2個考えればあとはリアクションするだけでいい(それもリアクションのパターンは限られている)。
まあ、こんなところか。
次回予告
で、次回は「2−3.メインストーリーをGMとPL1で共有する」で取り上げた「鏡影」というシナリオのイベントフローを記述してその構造を分析してみることにする。乞うご期待。