2.樹の中の剣
”そうして
彼女は
樹になった”
〜【樹】の逸話〜
依頼を受けると、翌朝メディアと、もう一人年のいった女〈顔はベールで隠している〉が現れ、森に向かうことになる。
老女は『サーラ』と名乗る。
森で野営をすることになる。
メディアは火を恐れて近寄ろうとしない。
夜遅く、樹魔が現れる。
◆呪われし子の夢
扉の前に貴族の男が立っていて、その前を右に左に行ったり来たりしている。
扉の中からうめき声がする。扉の中では、寝台の周りに女たちが集まっている。
黒い長い髪の女がその上で苦痛に顔を歪めている。やがて子供が生まれる〈その顔は見えない〉。
子供を取り上げた産婆は首を振る。周りの者は息を呑む。
白髪の混じった高貴な老女がその子を抱きかかえ、部屋を出る。老女は扉の前の男に子供を手渡す。
老女は男に何かを言い、しばらく言い合いになる。
しばらくして男は顔をうなだれ、子供を抱えたまま歩きだす。男はそのまま歩いて扉の前に行き、それを開け中に入っていく。
階段が下へと続いている。
燭台のロウソクに火を灯し、男は片手にその子を抱えて、地下の通路を先へと進んでいく。
その通路は右に左に複雑に折れ曲がっている。
やがて扉の前にたどり着く。
扉を開くと、水の流れる音がする。
部屋の中央に井戸がある。
燭台を床に置き、井戸の縁の大きな石を空いた片手で取り上げ、
それを高く振り上げる。その手が、石の重みで震える。
ぼとりと、石が地面に落ちる。
男は、空いたその手で、その顔に触れる。
井戸に歩み寄ると、それを、その中に落とす。水のはじける音。
子供は流されて、やがて外の川に出る。
そうしてそのまま、どこまでも流されていく。
◆「猟犬」の夢
森の池のほとりに杖を突いた老人が立っている。
「なぜ、きこりは家族を殺してしまったのであろうな?」
「それは、その剣の持つ運命に関係している。」
「きこりは家族のことをどう思っていたであろうか。」・・・・・・
「きこりは家族を愛していた。
それが、剣の持つ【運命】によって、家族を殺してしまうことになった。
剣の持つ【運命】とは何だ?」
◆「密使」の夢
・・・・・・
牢屋の一室で領主とせむしの男が何か言い合っている。
やがて、領主は腰の剣を抜き放つ。
せむしの男は懇願するような仕草をするが、領主はそれには全く構わずにその男の首をはねる。・・・・・・
領主が妻の衿をつかんで何かたたきつけるように話す。
領主は放心したように手を離し、がっくりと膝をつく。
妻は笑いながらその部屋を出ていく。・・・・・・
鏡の部屋で、領主の妻が鏡にもたれかかっている。
彼女は何か歌を歌っている。その目からは涙が流れ出し、鏡の表面を伝って落ちていく。
鏡に、ひびが入る。
◆「過去より来たりし者」の夢
「おまえは己の運命を解き明かしたいか?
すべてを見届けるのだ。
そしてすべてが終わったら、ここに戻ってくるがよい。
その時こそ汝の運命は解き明かされるであろう。」
◆「魔法の武器の所持者」の夢
かつての魔法の武器の所持者が現れる。
「もうすぐ、災いが起きる。
もし、その思いを解き放つことが出来なければ、
お前がその災いを封じなくてはならない。」
道案内の役となった「猟犬」か「過去より来たりし者」は、杖を突いた老人の幻影を見る。
その後を追っていくと、やがて少し開けた場所に出る。
小さな池があって、そのほとりに1本の枯れかけた樹が生えている。メディアに夢で見た女の事を聞くと、彼女は首を振りながら言う。
「私はあの人ではありません。
おそらく、私にこの姿を与えてくれたあの人に私が会う前に、もう亡くなっていたのでしょう。
あの人も、もうずっと前に亡くなりました。
あの人を知っていた人たちも、もう皆いなくなりました。
あとは、私、ただ一人だけです。」「この樹は、かつて私がまだ樹であった時に
私が飛ばした種から芽が生え、大きくなってこの樹になったのです。
夢で、この樹が私を呼んで、
だから、私はここにやって来たのです。」「私をここで、一人にしてはもらえないでしょうか。」
………………
彼女は独りになると、
その樹に、そっと、
触れる。
そして寄り添うようにして、目を閉じる。「…やっと、還って来た…」
かすかに、ささやく。
………………
そうして、
そのまま、
彼女は
樹になった
そのあと、その樹を切り倒すと、幹の中から1本の剣が現れる。
その刃は磨いたばかりのように、ピカピカと光っている。この剣を手に持った者は声を聞く。
「汝の行く手に、大いなる災厄が見える。
汝は、愛する者を自ら手にかけることになるであろう。」