夢−末期
◆ベルダの夢
深淵の中を逆さまにずんずんと沈んでいく。
どこまでも、どこまでも。
風が吹いた、と思う間に、白い、嵐が吹き荒れる。吹雪だ。
そのなかでもみくちゃにされながら、もうろうとした意識の中で、老婆はその大きな影を見いだす。
まわりではごうごうと耳をつんざくばかりの音が響きわたっている。
しかしその老婆の表情は穏やかになる。「おお、あれが。…」
「もう…。
…最期まで見届けたかったのじゃが。」老婆はつぶやく。
その老婆の影は、白い中に芥子粒のようになって消え失せる。
◆光と影(『双子』の夢)
「どちらが本物で、どちらが影に過ぎないか確かめよう。」
「ここに、鏡がある」そいつが手を触れると、二人を隔てる透明な壁(鏡?)が揺れ、相手の像が揺れる。同時に、地響きがして、ぐらぐらと地面が揺れる。
「この鏡をうち砕いた時、そちらが影で、鏡の中の世界に過ぎないのであれば、おまえとおまえが今いると思っている世界は消滅する。
さもなければ俺と、こちら側がそうなるわけだが、俺は自分が本物で、こちらこそが本物の世界だということを知っている。」
「では早速試してみようか。」そいつは大きな槌を振り上げる。そして鏡に思い切り打ち付ける。
鏡は粉々に砕け散り、同時に君自身とその世界も粉々になって消失する。
◆鎌の夢(『片腕』の夢)
鎌を持った人影が立っている。それは、君の腕を切り落としたあの鎌だ。
あの『黒い服の女』ではなく別の人物がそれを持っている。
それは君の知っている人物。見たことのある。
『愛人』。
◆白い樹の夢(『愛人』の夢)
「ごめんなさい。もう行かなくては。
どうしても会いたい人がいるの。
(間)
…弟が。」彼女の姿が闇に沈んでいく。
「…もしすべてうまくいけば…また…
…さようなら…
………
白い樹を…探して…
その下に…」闇の中にその姿は消える。声も、もう聞こえない。
◆死の影(『死の司』の夢)
「はやくしろ。」
「はやく。」
「はやく会いたい。」
「はやく帰りたい。」
「はやく行きたい。」
「はやく。」
「はやく。」
「はやく。」
「はやく。」
「どうしてみすてたんだ?」
「どうして?」
「どうして?」
「俺が死んだとき、おまえはどうして俺をみすてたんだ?」
「私が死んだとき、あなたはどうして私をみすてたんだ?」
「みすてたんだ?」
「みすてたんだ?」
「どうして?」
「どうして?」
「どうして?」
「死は辛い」
「辛い」
「まだ」
「まだ」
「まだ」
◆音色(『破壊者』の夢)
鎌が見える。鎌を持った人影が見える。見たことのある人物(『愛人』)だ。洞窟の中か、暗い広場にいて、そのごつごつした地面に大きく“印”が描かれている。
鎌を持った人物は、その印に鎌を振り下ろす。
1度目、金切り声のような大きな音がして、その撃ち降ろしたところから網目状にひびが入る。その裂け目からひゅうひゅうと白い冷たい風が吹き出す。
もう一度振り下ろす。ひびはさらに広がり、轟音と共に砕け散る。そこからものすごい勢いで白い風が吹き出し、辺りを見えなくする。風は広場全部に吹き荒れ、渦巻く。ガラガラと岩の崩れる音が聞こえる。ずしんと地響きが起こり、どこか遠くで悲鳴が上がる。