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場面集 -呪縛-


『これを、彼女に飲ませてやって欲しい。』
                〜領主の言葉〜


◇魔族と魔導師
◇提案
◇使者
◇犠牲
◇聖なる毒薬
◇清めの儀式
◇接触
◇聖水
◇説得


◇魔族と魔導師(「友人」の夢歩き)

 白い包帯のようなものを全身に巻いた巨人の前に3つの人影が立っている。
 ひとりは緋色のローブを身にまとった小柄な人影。もうひとりは剣を腰に下げた、傭兵風の男。もうひとりは黒い衣装を身にまとった、白髪混じりの知的な雰囲気を漂わせた人物。
 白髪混じりの男は言う。

「あなたを解き放つために。ヴェスパールという名の男の力を借ります。」

ぱっと、魔物の全身が炎に包まれ、そいつはすさまじい唸り声を上げる。

「…おやおや…そんなに奴が憎いですか?
 しかし我々とすれば、奴が鍵を握っている以上、その力を利用せざるを得ない。
 そう、我々は奴の力を逆に利用しようというのです。
 奴をだまし、さも味方であるかのように思わせておいて、最後の最後で徹底的にひどい目に遭わせてやる。そうして、奴のすべてを奪い、破壊し尽くす。
 これこそ、復讐の醍醐味とでも言うべきものじゃありませんか。」

魔物は荒く、肩で息をしている。

「落ち着いたようですな。
 ところで、我々の方は、計画は順調に進んでおります。
 もう、“巫女”は見つけることができました。
 今は、それを奴に知らせるだけという段階です。」

「あとはあなたの方で、例の件、頼みましたよ。」


◇提案(「滅んだ貴族の子孫」の夢)

 例の魔物が現れる。

「この子をちょうだい。」
「あなたからこの子を奪うのではなく、私はこの子とひとつになりたい。」
「私がこの子とひとつになれば、この子は女の子だから、大きくなっていつか誰かと結ばれて、子供を産むでしょう。
 私は、私の子が欲しい。」

「この子は『呪われた子』と呼ばれる。
 あなたがそれを信じようと信じまいと、現に、この子のことを『呪われている』と信じている人々がいて、その人たちはこの子がそういった存在だと知ると、殺そうとするでしょう。
 あなたや、あなたの愛する人がこの子を守ると言うかもしれませんが、それでも、いつも、いつまでも守り続けられるというわけではない。
 でも、私がこの子とひとつになれば、いつどんな時でも、この子を守ってあげられる。」

「私がこの子とひとつになるためには、あなたが私の元に来てくれないとできません。
 もうすぐ、緋色のローブを着た使いがあなたの元にやってきます。
 その人の言葉に従ってください。
 そうすれば、あなたは私の元に来ることができる。」

「ですが、気を付けてください。
 ヴェスパールという名の男はあなたの子が呪われていることを知っていて、それをとても恐れているので、一刻もはやくその子を殺そうと、罠を仕掛けていることでしょう。
 あなたが私の元に来るまでに、その悪しきたくらみが成就しないよう、くれぐれも注意するようにしてください。
 それはきわめて狡猾で、逃れようのないような罠かもしれませんが、何とかその子を守ってあげてください。」


◇使者

 緋色のローブを着た老婆(占い師)が衛兵を引き連れて、「滅んだ貴族の子孫」の元にやってくる。

「町の領主様があなたをお呼びですじゃ。
 領主様の館まで、来てはもらえませぬかな?」


◇犠牲(「滅んだ貴族の子孫」と領主の対話)

「実は、頼みがある。
 見てのとおり、私は今病に臥せっていて、このままではその命も長くはない。
 だが、私はまだ死にたくないし、今死ねば町に大変ことが起きることになるであろう。
 この町を狙う悪しき輩は数多いのでね。

 しかし、たったひとつだけ方法がある。
 どうか、私と、この町のために犠牲になってはもらえないだろうか。

 あなたには、本当にすまないと思う。
 しかし、ほかに方法がないのだ。
 あなたは、そうなることが運命によって定められていて、ほかの誰にもあなたの代わりを務めることはできない。

 だから、頼む。
 どうか、私のために死んでくれ!」

「子供のことは、本当にすまないと思う。
 しかし、もう時間がないのだ。」

「あなたが、あなたの勝手で死にたくない、そんなことは引き受けられないと言うのはよく分かる。
 しかし、そうであるならば私も、私自身の勝手で、死にたくないし、そのためにはあなたに犠牲になってもらうしかない。
 できれば納得してもらった上でそうしてもらった方が良いのだが、やむを得ないのであれば、私はあなたを拘束し、犠牲となることを強要せざるを得ないことになる。」


◇聖なる毒薬(「友人」と領主の対話)

「彼らと親しい君にひとつ頼みがある。」

 小さな小ビンを取り出す。中に透明な液体が入っているのが見える。

「これを、彼女に飲ませてやって欲しい。」

「あの子供が呪われているという話は知っているか?
 あの子供が生きていると、いずれ災いを呼び込んでしまう。
 呪いとは、そういうものなのだ。
 とりわけ、呪われた子は、魔族の力を招き寄せるという話がある。

 彼女には、巫女となって、私とこの町を守るため、犠牲になってもらうことにした。
 これは運命によって定められていることで、ほかの誰にも代わりを務めることはできない。
 これは、仕方のないことなのだ。

 しかし、問題がひとつある。
 そのおなかの中の子供だ。
 その子は、死にたくないと思うあまり、魔族の力を呼び出してしまうかもしれない。
 だからその前に、これでその子の命を絶っておきたいのだ。」

「これはただ、その子供だけを殺すことができる。その親の体には、何の影響も与えることはない。」

「実は、これは聖水だ。正真正銘の。
 あの、おなかの中の子供は呪われていて、
 呪われた存在であるから、この聖水の力でもって死に至らしめることができるのだ。」

「これを、おまえの手で飲ませてやって欲しい。方法は問わない。」


◇清めの儀式

 儀式が行われる。「失われた貴族の子孫」は、巫女として体を清め、翌朝「巫女送りの儀式」が行われる。
 夜、清めの儀式のため、彼女は神殿に連れて行かれる。


◇接触(「不義の子」とギトールの対話)

 傭兵風の男が立っている。

「ギトール様がおまえをまっている。
 来い。
 先に言っておくが、逃げようとしても無駄だ。
 死にたくないのであればな。」

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「よく、お越しくださった。」

「あなたは、あなたの愛するあの女性を何とかして救いたいとは思わぬか?
 もしそうであったら、我々はあなたをお助けすることができる。
 もちろん、“ただ”でとは言わない。」

「彼女は巫女となって、門の向こう側に行くことになっている。
 具体的にどうするのかまではわからぬが、我々の調べではそうらしい。
 例の魔族は、厳密には封印されたのではなく、むかし妖精たちが作った異世界とでも言おうか、そういう特殊な場所の中に閉じ込められてしまっている。
 巫女は、そこへと続く門を抜けて、あちらへ行くことになっている。」

「しかし、そこに我々の付け入る隙がある。
 彼女がその中に入っていって、その魔族を連れてきてくれれば、その間、我々が何とかその“門”が閉じられないように手を打とう。
 もちろん、領主の手の者がそう簡単には許してはくれぬだろうが、我々にはそれを何とかするだけの力がある。」

「この話を聞いてしまった以上、あなたには我々の仲間となってもらうほかないが。
 しかし、万一あなたに裏切られると厄介なのでね、なにか“証”のようなものをいただけぬか。
 まず、彼女にこの話を伝えてほしい。
 そしてその時に、何か彼女の身に付けている…そうだな、彼女が大切にしているようなものでもあれば良いのだが…それを我々の手の者に渡してもらいたい。あなたが彼女と面会したあとに、我々の手の者があなたに接触するということにしよう。
 その時に“証”を渡してもらえれば、我々は彼女を救う計画を実行することにする。」

「今は言えぬが、我々には切り札がある。」


◇聖水

 巫女は、体を清めるために沐浴をし、さらに内からも清めるために聖水を飲んでもらうことになる。
 もちろん聖水を飲めば、その子供はやがて死ぬ。

 聖水を飲ませる役は、「友人」がやっても良い(本人が望めば)。


◇説得(「滅んだ貴族の子孫」と領主の対話)

 領主がお忍びで、側近を連れて説得にやってくる。

「今回は子供の話をしに来た。その迷いを断っておいてやろうと思ってな。
 その子が『呪われている』という話は知っているか?
 おまえの子供は呪われていて、本人が望もうと望むまいとそのままではいずれ災いを招き寄せてしまう。
 だからいっそのこと、このまま死んだ方が、その子のためでもあるのだ。

 なぜその子が『呪われている』のか知っているか?
 ひょっとすると、その父親である男は、もうそのことを知っているかも知れぬ。
 聞いて見るといいだろう。」

「これは、確証があるわけではないのだが、
 これまでこうして運命によって巫女に選ばれた者には、みな共通点があった。
 それは『呪われた子』を身ごもっていたということだ。
 それもただの呪いではなく、その原因も共通している。
 その子が呪われた存在となってしまったのは、みな親に原因があった。
 親が何か病気だったとか、悪い刻印を引き継いでいたとか、そういう原因ではない。
 親同士の関係そのものが、呪われたものであったからなのだ。

 その男は年上か?
 ならば、これは不幸なめぐり合わせとしか言いようがないが、
 多分おまえと、その男とは血がつながっている。
 どんないきさつでこんなことになってしまったのか、私には知る由もないが、
 その男はおまえの実の兄だ。」

「いったいそんな子を産んでどうしようというんだ?
 そのことを知った者はみな、その子を呪われていると言うであろう。
 その子にいったい何と説明するつもりだ?
 『私たちの呪われた関係によっておまえは呪われた子になってしまった。ごめんなさい。』
 とでも言うのか?

 その子は生まれたとしても、とても幸福な人生は送れぬであろう。
 生まれないほうが良かった。死んだ方がましだ、とすら言うかもしれない。
 そんな目に遭わせるくらいなら、最初から、生まないでおいた方が良いのではないかね。」

「だから、その子のことはあきらめなさい。」