<汎用的説得ルール>

 どのTRPGシステムでも使える説得ルールです。

1.背景
 「ゆうやけこやけ」では「説得」が問題解決として重要になることが多いと思われるのだが、上手く表現するシステムが実装されてないので……作成。「Aの魔法陣」なんかだと普通の判定処理で普通にやるだけやん、てことになるし「スクラップドプリンセスTRPG」ではまさに説得ルールがあるが、それ以外の多くのシステムでは説得するときに上手いシステムがないので、なあなあで処理されていた。

 が、実際には説得というのは論理的かつシステマチックな行為である。ということでシステム化をば。


2.基本手順
 基本手順は以下。

<1>GM説得課題を提示する。説得課題の要素として「説得目標ポイント」が明示される。
<2>PLが「説得材料」を提示する。「説得材料」が承認されると、「説得材料」が「説得ポイント」という形でポイントで評価される。
<3>「説得ポイント」を累積していき、その総計が「説得目標ポイント」以上になり、かつ「前提条件」をすべてクリアすれば説得成功となる。

2−1.「説得課題」の提示
 以下のフォーマットで提示する。

【説得課題】何をどうしてほしいのか?説得の議題。
【説得対象】誰を説得するのか?説得する相手。
【説得目標ポイント】説得の難しさ。目安は以下(バランス調整未達)。
5…簡単な説得
10…難しい説得
15…かなり困難な説得
20…とてつもなく困難な説得。普通は説得できない。
【前提条件】説得するにあたって最低限必要な前提条件
セッションの進行に従って新たに追加、消滅することもある
※【前提条件】1つにつき【説得目標ポイント】を−2する。【前提条件】のクリアは評価点2の「説得材料」の提示と等価と見なす。

以下、実例。

【説得課題】病気の治療を嫌がる医者に、赤ん坊の治療をしてほしい
【説得対象】医者
【説得目標ポイント】8(前提条件が1つあるので目標ポイントを−2)
【前提条件】1人で治療することは不可能である

2−2.「説得材料」の提示
 PLが説得材料を提示する。まあセッション参加者が、「そういうことを言われたら納得してもいいかのう」というような材料のことである。

<説得材料の例>
・治療を自分も手伝うと申し出る
・過去に犯した治療の失敗に報いるためにも是非治療すべきであると言う
・罪のない子供を助けたくはないですか?と言う
・助けられるのはあなただけです
・助けるためにわざわざ遠くから苦労してやってきたのです
etc...

2−3.「説得材料」の評価
 評価は以下の手順で行う。

<1>有効/無効の評価
 説得材料がそもそも有効か無効か評価する。

<2>有効度の評価
 提示されて「説得材料」がどれくらい有効か評価する。

2−3−1.有効/無効の評価
 たとえば上記の例だと「治療しないとコロニーが落ちてきて町が滅ぶぞ」と言っても、現実的日常世界では信じてもらえないので無効になる。逆にガンダムの世界なんかでは有効となり得る可能性もある。

 ほかに、「罪のない子供を助けたくはないですか?」と言った場合、言い方次第で有効になったりならなかったりする。そういう場合は有効にするために何らかの判定を要求してその成功をもって有効とする。

2−3−2.有効度の評価
 説得材料の有効度を評価する。評価は【説得対象】の主観で決めること(多くの場合はGMが決める)。以下の観点で決定。

観点/条件
評価点
世界観的に問題ない説得材料である
世界観的に問題ない説得材料である
【説得対象】にとって重要な価値観を考慮した説得材料である
世界観的に問題ない説得材料である
【説得対象】にとって重要な価値観を考慮した説得材料である
シナリオ上【説得対象】にとってとても重要な問題を考慮した説得材料である
「前提条件」を解消する説得材料である

該当する「前提条件」が解消される

 以下、実例。

<評価点1>
・罪のない子供を助けたくはないですか?と言う
・助けるためにわざわざ遠くから苦労してやってきたのです

<評価点2>
・助けられるのはあなただけです

<評価点3>
・過去に犯した治療の失敗に報いるためにも是非治療すべきであると言う

<前提条件の解消>
・治療を自分も手伝うと申し出る


3.実際の運用例

3−1.説得課題の提示
 PC達は病気になった赤ん坊を連れて(元)医者の所にやってくる。その医者しか赤ん坊を治すことができないのだ。しかし、医者は赤ん坊を治すことを拒む。
 ということで「説得課題」の提示。

【説得課題】病気の治療を嫌がる(元)医者に、赤ん坊の治療をしてほしい
【説得対象】医者
【説得目標ポイント】8(前提条件が1つあるので目標ポイントを−2)
【前提条件】1人で治療することは不可能である

3−2.説得材料の提示
 次、PL側から「説得材料」の提示。

・治療を自分も手伝うと申し出る
・罪のない子供を助けたくはないですか?と言う
・助けられるのはあなただけです
・実はPCは医者の友人で、友人として助けてくれと言う

以上5つの「説得材料」が提示された。

3−3.説得材料の有効・無効の評価&有効度の評価
 以下のように評価。

・治療を自分も手伝うと申し出る
 →有効。前提条件の解消

・罪のない子供を助けたくはないですか?と言う
 →限定的有効。交渉技能での判定で成功したら有効とする。
 →判定に成功して評価点1。

・助けられるのはあなただけです
 →有効。評価点2。

・実はPCは医者の友人で、友人として助けてくれと言う
 →無効。

以上で、

・前提条件→解消
・説得ポイント→2点

のポイントを稼いだ。残り説得ポイント7点必要となった。
結果、医者は説得に応じずPC達はまた翌日医者の元を訪れると言ってその場を去った。

3−4.調査
 調査は説得作業の前に行うこともあるし行き詰まってあとから行うこともある。今回は時間がなかったためぶっつけ本番で行ったが、材料が足らないのがわかったため医者の身辺について調査(調査技能などで判定)。結果、以下の情報が得られた。

・(元)医者は昔の治療のミスで子供を死なせたことを気に病んで医者をやめてしまったらしい
・その件について知る医者の友人を発見。彼に説得に関する助力を依頼

3−5.再説得(「説得材料」の再提示)
 上記の「説得材料」のほかに、調査結果から以下の「説得材料」を追加。

・過去に犯した治療の失敗に報いるためにも是非治療すべきであると言う
・友人からも是非やるべきだと説得してもらう

3−6.説得材料の有効・無効の評価&有効度の評価
 以下のように判定。

・過去に犯した治療の失敗に報いるためにも是非治療すべきであると言う
 →有効。医者の過去に関わる重要な説得材料なので評価点3とする。

・友人からも是非やるべきだと説得してもらう
 →有効。医者の設定に関わる説得材料なので評価点2。

結果

・前提条件→解消
・説得ポイント→7点

残り1点となった。

3−7.前提条件の追加
 ここで医者側から前提条件を追加。

・治療で協力する際には協力者自身の命が危険にさらされる可能性がある。命をかける覚悟があるかどうか?

で、前提条件が増えたため、前提条件に項目が追加され、「説得目標ポイント」がその分2点下がる。

【説得課題】病気の治療を嫌がる(元)医者に、赤ん坊の治療をしてほしい
【説得対象】医者
【説得目標ポイント】6(前提条件が1つあるので目標ポイントを−2)
【前提条件】・1人で治療することは不可能である
・治療で協力する際には協力者自身の命が危険にさらされる可能性がある。命をかける覚悟があるかどうか?

3−8.前提条件に対する説得材料提示
 PC側から「命をかける覚悟がある」という意志を力説。

・命をかける覚悟はある

3−9.説得材料の有効・無効の評価&有効度の評価
 以下のように評価。

・命をかける覚悟はある
 →条件付き有効。覚悟があることを説得技能等で表明を求める。
 →判定に成功したので、「説得材料」は有効に。前提条件が解消されて説得成功。

3−10.結果

・前提条件→2つとも解消
・説得ポイント→7点(6点以上で成功)

以上で説得成功し、医者は赤ん坊を治療してくれることになった。


4.諸テクニック
 説得のための諸テクニックを。

<1>「説得材料」は創出できる
 元々PCの能力や、知った情報に材料が何もなくても、例えば、「土下座してお願いする」など、その場でとっさにアクションで創出することが可能である。

<2>調査によって「説得材料」を収集できる
 調査をして相手をより深く知ることで相手が納得しそうな「説得材料」を新たに発見することが可能である。

<3>「前提条件」の追加で被説得者が歩み寄ることが出来る
 PC側がどうやって説得したらいいか思い悩んでいるときには、被説得者の方から「これをやってくれたら考えてもいい」という具合に新たに「前提条件」を追加して難易度を低下&PCがやるべきことを明示化することが出来る。


5.備考
 「Aの魔法陣」なんかは上記のような処理を普通にシステマチックに処理できるのだが、「Aの魔法陣」では説得材料の有効・無効というレベルでしか判定者の意図が反映されないという問題がある。しかし、現実に説得というのは被説得者の「主観/感情」が絡むものであり、どんなに論理的でも「主観/感情」に反することは却下されうるし(これはゲーム理論で実証されている)、逆にちょっとしたことでもその当人の「主観/感情」からすると大きく評価されることがある。この辺は調査などをして説得する対象についてより深く知ることで、対象の「価値観」という「小宇宙(コスモとは読まない)」を理解するという、コミュニケーションの面白さを感じられる部分である。

 で、この被説得者の「主観/感情」をどうやって表現するかであるが、システムでランダムで表現するという手もあるが、同じ人間ということでGM自身の「主観/感情」で代用してもかまわないと考える。説得、というのはGMの「主観/感情」を理解する、コミュニケーションそのものでもあるのである。

 ……という小難しい理論に基づいて作ったのがこの「汎用的説得ルール」である。説得のために説得材料を集めてセリフに込めて表現しようとか、キーワードが充足されないとどんなに材料を持ってこられても応じないとか、ある種の個人的にクリーンヒットな材料が高く評価されるとか、その辺の実際これまでやってきた「説得」のノウハウが上手く表現できたと思う。

 まあ、この辺のGMの主観で判定が左右されるのを嫌がって限りなくシステマチックに整理したのが「Aの魔法陣」だと思うのだが、それって限りなくオールドゲーマー的考え方なんだよねえ。

 そんな感じで。
 究極的にはこのシステムだけで回すTRPGシステムも考えられるかも知れない。うーむ。